漢方あれこれ

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漢方薬についてよく聞かれること(FAQ)

 漢方薬は西洋薬といろいろな面で異なっています。そのために診察室で質問される内容も様々です。主な質問を以下にまとめてみました。

漢方薬についてよく聞かれること(FAQ)

7.漢方医学と中国医学はどこが違うのか

「漢方医学」と「中国医学」は似たようなものだと思われていますが、現在ではかなりの違いがあります。漢方医学は、日本で伝統的に行なわれてきた伝統医学のことで、「日本漢方」ということもあります。

歴史は古く、十六世紀には日本的な考え方が出来上がり、中国の影響を受けながら独自の考え方が発展してきました。中国では中国の伝統医学を「中医学」といいますが、中華人民共和国になって教科書を作る必要から伝統的な医学を統合して作りあげたのが現在の中医学の基本になっています。大きな違いの一つに薬の量があります。

葛根湯の生薬量

  葛根 麻黄 大棗 桂枝 芍薬 甘草 生姜
日本 8.0 4.0 4.0 3.0 3.0 2.0 1.0
中国 9.0 6.0 5.0 6.0 6.0 5.0 6.0

単位はgで煎じ薬として用いる一日量です。日本は『経験漢方処方分量集』、中国は『中医処方解説』から引用しました。

▼水の違い

一つは水の違いが考えられています。中国の水は主に硬水で日本の水は軟水です。硬水と軟水では出来上がった煎じ薬の成分に違いが出ることが研究でわかっています。そのために、分量が違っていると考えられています。

▼気候の違い

また、患者さんの生活している地域の気候により処方される薬が異なります。中国の北部は乾燥しているので地黄のような潤す薬が多く処方され、日本のように湿ったところでは茯苓や朮などの乾燥させる薬が多く処方されます。処方によっては、この気候の違いが処方の生薬分量の違いになっていると考えられています。

▼修治の違い

日本漢方と中医学で大きく異なるものの一つに「修治」があります。では、「修治」とは何でしょう。修治というのは生薬に熱を加えたり、水で煮たりなど加工することですが、どうしてわざわざ手間暇をかけて加工するのでしょうか。  漢方薬は天然の物だから安全と考えがちですが、必ずしも安全ではありません。たとえば、毒キノコやトリカブトに毒があることは皆さん衆知のことですが、これらも天然の物です。天然の物だから安全とはいえないのです。トリカブトは漢方で附子、烏頭、天雄などと称してしばしば処方の中に入っています。修治の一つの目的は、天然物の毒性を軽減することにあります。

修治のもう一つの目的は、薬効を高めることです。漢方薬は天然の物なので、薬効は弱く、その薬効を高めるために様々な工夫がなされています。その工夫の一つに修治があります。朝鮮人参は、ただ乾燥させるよりも、蒸してから乾燥させた方が有効成分が増えることがわかっています。また、生姜は蒸して乾燥させると身体を暖める力が強くなります。  これらの修治も日本漢方と中医学ではかなり異なっています。日本漢方では薬用にならない部分を取り除くことはよく行ないます。しかし、それ以外の修治はなるべく行なわないで、生薬をそのまま使うことがほとんどです。中医学では生薬を水に浸したり、薬液につけたり、炙ったり蒸したりなど様々な修治を行ないます。

▼考え方の違い

漢方医学と中国医学の大きな違いに、診断法があります。漢方医学では患者さんを診察し、どんな処方(葛根湯、小柴胡湯など)がいいかを直接判断しますが、中国医学では診察をして、中国医学の病名をつけどんな生薬(甘草、生姜など)が必要か考え処方を組み立てます。そのため、同じ患者さんに漢方医学と中国医学で違った処方がでることもあります。

以上の他に、生薬の刻み方(切り方)の違いも関係しているかもしれません。

8.妊娠と漢方

 妊娠中は漢方薬で治療したい、という患者さんが時々おいでになります。これはサリドマイドなどの西洋薬を妊娠中に服薬したために、子供に障害が起きた話が伝わっていることが原因のようです。

 漢方薬は妊娠中に飲んでもいいものでしょうか。漢方薬は、必ずしも安全なのではありません。漢方の古典で妊娠中には「汗、吐、下を禁ずる」といい、汗を出したり、吐かせたり、下剤をかけるような治療をしてはいけないと戒めています。現代の漢方では吐かせる治療は行なっておりませんので、汗を出す治療と、下剤をかける治療が問題となります。

 汗を出す治療とはどんなものでしょうか。風邪を引いた場合に、発汗とともに熱が下がりすっきりすることがあります。漢方では、風邪などの急性感染症の初期に汗を出し、病気を汗と一緒に追い出すといった考え方があります。葛根湯や麻黄湯が発汗させる薬としてよく使われます。妊娠中は体力が低下している場合が多いので、これらの麻黄の含まれた処方は強すぎる場合が多く、あまり使われません。

 下剤をかける治療で代表的な生薬は大黄です。大黄は子宮収縮作用もあるため、大量に用いると流産の危険が出てきます。妊娠中の下剤による治療は、経験豊富な医師の診断を受けるべきです。

 ただ最も心配なのは、母親の服用する漢方薬による胎児の奇形ですが、現在のところ漢方薬で奇形が増えたといった報告はありません。