漢方あれこれ

漢方あれこれ

漢方医学と西洋医学の比較

どちらも病気の治療をしますが、漢方医学と西洋医学では考え方が大きく異なっています。治療方法や治癒といった概念も異なります。

漢方医学と西洋医学の比較

1.漢方医学と西洋医学での治療法の違い

  西洋医学と漢方医学で最も異なるのは、病気の原因についての考え方ではないでしょうか。西洋医学は自然科学が基本になっていますので、ウイルスや細菌などの感染症、癌、糖尿病、膠原病などといった病名が治療の基本となります。漢方では患者さんの訴え、脈、舌、腹などを診察して、西洋医学とは全く異なる虚実、陰陽、気血水などの分類方法で分類して治療しますので、必ずしも西洋医学の診断は必要ありません。そのため一つの漢方処方が、西洋医学的にはまったく関係のない病気の治療に用いられることがよくあります。

 例えば、風邪薬として有名な葛根湯という処方があります。この処方は、アレルギー性鼻炎や肩こり、乳汁分泌不全などにも用いられます。もっと極端な処方を例にあげますと、半夏瀉心湯は胃炎、鬱状態、アトピー性皮膚炎、感冒など多彩な病気に用いられます。これとは逆に西洋医学では薬から病気が予想できます。たとえば、シメチジンは胃十二指腸潰瘍または胃炎の胃酸の分泌抑制に用い、塩酸ブロムヘキシンは気管支炎や肺結核などの去痰に用いるなどです。このように考え方が違うために、漢方を知らない医師が漢方薬を「一つの薬で治療できる病名が沢山あるいい加減な薬」と考えてしまう間違いがよく起こります。

 同じように漢方治療に訪れた患者さんも、病名と漢方薬の関係について戸惑うことが多いようです。初めていらした方から「どんな薬ですか」と聞かれることがよくあります。例えばアトピー性皮膚炎の患者さんに半夏瀉心湯をお出しした場合には、「胃腸を整えて全身の皮膚を治す薬です」とお話ししますと、「胃腸は至って丈夫です」とか「胃の内視鏡で異常なしといわれました」など、とんちんかんな会話になってしまうことがあります。「あなたに合わせたお薬です」というのも冷たい返答です。結局、「漢方での胃腸と西洋医学の胃腸は同じではない。自覚症状がなくても舌や脈や腹診で胃腸が弱いと判断した。漢方では悪い場所を治すのではなく、体全体のバランスをとり治すのである」と説明を加えなくてはならなくなります。

2.漢方医学と西洋医学での治癒についての考え方の違い

 治癒とは病気の治った状態のことですが、漢方と西洋医学ではこの「治癒」に対する考え方が異なります。   西洋医学では、再び病気が起こることが予想される状態では、検査結果が落ち着いていても寛解といって治癒とは区別しています。寛解を除いて、検査結果や症状が落ち着いて病気の再発がないと考えられる状態が治癒です。

 一方漢方では、前述のごとく検査結果はあまり関係しませんので、自覚症状と脈、舌、腹などの他覚症状の変化から病気の状態を把握します。一般には自覚症状が先に取れますので、他覚症状に異常がなくなった時点で治癒とします。

 また、漢方では「未病を治す」と言い、病気になる前に治すのが名医だといった考え方があります。病気になる前というのは、自覚症状として病気が出る前の他覚症状の異常のみの間に病気をみつけて治すということです。この考え方は西洋医学でも生かされており、癌や慢性病の早期発見や早期治療をする、予防医学として発展しています。

3.漢方薬と西洋薬との併用について

「西洋薬を服用中で漢方薬も飲みたいが問題はないか」というお問い合わせをよくいただきます。 この問題についての研究はほとんど行なわれていないのが現状です。しかしインターフェロンαと小柴胡湯の併用のような特殊な場合を除いて「西洋薬と漢方薬の服用時間を1時間以上あければ問題ありません」とお話ししています。

 近年、インターフェロンαと小柴胡湯の併用で間質性肺炎の発現が報告されるようになり、併用してはいけないことになりました。新薬と漢方薬の併用は未知の部分ですので、併用しないことが原則になります。

その他の特殊な場合の一つに麻黄という生薬があげられます。西洋薬の塩酸エフェドリンはこの麻黄から作られた薬で、同じような働きがあります。そのため、麻黄と塩酸エフェドリンを併用する際にはそれぞれの量またはどちらかの量を減らすなどの注意が必要です。塩酸エフェドリン以外の気管支拡張剤も同じような注意が必要です。

 もう一つには甘草があげられます。甘草は漢方処方全体の2/3に含まれているといわれている程よく使われている生薬であり、さらにお菓子や醤油の甘味料としても使われています。甘草には血圧上昇、血清カリウム低下、むくみなどの副作用があります。高血圧や腎臓病などで用いられる利尿剤と甘草を併用すると、血清カリウムの低下が起きやすくなります。血清カリウムは血液中に含まれている電解質の一つで、極端に増えたり減ったりすると心臓停止など重大な影響が出ることがあります。また低カリウムでは、筋肉の脱力や麻痺などが起きる事もあります。

 漢方薬には下剤の配合されているものが多数あります。特に多く使われているのは「大黄」です。大黄は西洋医学では下剤としてのみ使われますが、漢方医学では下剤としての働きの他に、血液循環の改善、炎症を抑える、精神異常を治すなど色々な働きがあります。そのため、かなり多くの処方に大黄が入っています。これら大黄の含まれている処方を服用する際には、下痢をすることがありますので注意が必要です。

 この他にも西洋薬と漢方薬の併用で注意が必要な場合がありますが、自己判断せずに、必ず主治医に相談して下さい。