漢方あれこれ

漢方あれこれ

漢方の基本的考え方

漢方の基本的考え方

1.漢方治療でよく使われることば

 漢方を勉強していると難しい言葉が色々と出てきます。これは 漢方が治療を中心に発達した学問で、西洋医学のように自然科学が基本ではないからです。漢方治療を考えやすくするために作り出された概念を、ことばで表わしたのが漢方で使われている用語です。「虚実」、「陰陽」と「気血水」はその中でも使用頻度が高ことばです。

虚実

 虚実は漢方の考え方を理解する上で最低限必要なことばの一つです。虚証、実証ともいい、体力がない人を「虚」、体力がある人を「実」と分けるのが一般的ですが、本来は相対的なもので、虚の中にも虚の部分と実の部分がありますし、実の中にも虚の部分と実の部分があります。また虚実は安定したものではなく、常に虚から実へ、実から虚へ時間的な変化があります。虚証では体力を補うような治療をし、実証では、体力の余分な部分を体から追い出す治療をします。また、実証では身体の中に毒がたまっているのでそれを追い出す治療をするといった考え方もあります。

陰陽

 陰陽も虚実と同じように陰証、陽証という言い方があります。新陳代謝が衰えている状態が陰で、新陳代謝が盛んな状態が陽と考えます。また陰陽もさらに細分化でき、陰を陰と陽に細分化できますし、陽も陰と陽に細分化できます。陰陽も安定したものではなく、時間とともに常に変化します。陰証では身体を暖める治療をします。陽証では身体を冷やす治療をします。

気血水

虚実、陰陽とともに病気の状態を理解する上で重要なのが気血水です。気、血、水それぞれにいくつかの病態があり、これらの病態がいくつか組み合わさっていることがあります。病気の状態が気、血、水のどの部分の異常かを判断してそれに合わせて治療を行ないます。「気」は動きがあって形がないものを指します。腸内ガスや呼吸、精神的な働き、のぼせ感などが含まれます。「血」は血液自体も指しますが、体を栄養する物や免疫能を指します。「水」はすべての体液やむくみを意味します。

2.自覚症状と漢方治療

 漢方治療では自覚症状を重要視します。西洋医学ではほとんど問題にならないことにも漢方薬を決定する際には案外重要なことが含まれています。たとえば、60~70歳ぐらいの胃腸が丈夫な患者さんで慢性の腰痛があり、足が冷えて、歩行が不安定、夜間尿が多く頻回にトイレに起きる。という訴えがあれば、西洋医学では前立腺肥大症と変形性腰椎症がありそうだと病名が思い浮かびます。漢方の発想では八味地黄丸が合いそうだと薬が思い浮かびます。漢方の治療法は、血液検査やレントゲンなどができるずっと以前からありますので、自覚症状を中心に脈、腹や舌などを診察して、どの薬が体に合うかを決定します。薬の決定において、検査は重要視しません。ただし、漢方病気の治療経過をみるためには、検査は一つの目安となります。また、今後病気がどのような経過をたどるか、といった病気の予後を予測するには、検査が重要な位置を占めるのはいうまでもありません。

3.当院での受付から帰宅まで

 受付においでになり、最初にカルテを作ることは一般の診療所と同じです。診察ですが、漢方では患者さんから聞かなければならない内容が多いため、問診表を待ち時間の間に記入していただきます。診察は問診表を見ながら医師が足りないことを追加質問することで始まります。さらに、血圧測定、舌の視診、脈、腹の触診をして終了です。必要に応じて他の部分も診察します。患者さんが不思議に思うことは、目の病気であろうと、皮膚の病気であろうと、どんな病気でも必ず舌、脈、腹の診察をすることです。この3ヵ所の診察は漢方薬を決める重要な要素なのです。診察が終わると漢方薬の処方箋をお出ししますが、病気の状態によっては血液検査、尿検査、レントゲン、心電図などの検査をします。会計が終われば次は調剤薬局に行きます。当院では「院外処方箋」をお出ししていますので、健康保険で認可されている薬の処方が可能です。煎じ薬、エキス剤、丸薬など漢方薬や西洋薬を状況に応じてお出しできます。

4.漢方の治療には流れがある

 漢方の治療は西洋医学と異なり、治療に流れがあります。

 西洋医学では、アレルギー性鼻炎などで鼻汁が出る場合には、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤など鼻水を止める薬がでます。しかし漢方医学では体質が重要ですので、鼻汁が出る患者さんで胃が弱い場合には、先ず六君子湯や半夏白朮天麻湯などで胃の調子を整えます。ある程度胃の働きが整った後に葛根湯や小青竜湯などに処方を変更すると、初めて鼻汁が止まります。

 また別の例をあげますと、アトピー性皮膚炎に西洋医学では炎症を止める働きのある塗り薬やのみ薬を、炎症の状態に応じて処方します。しかし漢方医学では体質を考えますので、体力が衰えているために皮膚を治す力がないと判断すると、十全大補湯で体力をつけることを基本として、炎症が悪化した時には炎症をおさえる黄連解毒湯に一時的に変更するといった使い方をします。

 このように漢方医学では最初に体質を改善して、後に症状を改善させる治療をすることがよくあります。また例としてはあげませんでしたが、逆に鼻汁や痒みなどといった症状に対する治療を先に行ない、後で体質の改善をする場合もあります。漢方医学ではこのように治療に流れがあり、必ずしも最初から病気の症状が改善するとは限りません。