家族を治療して
はじめに
気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をはじめ、神経症、皮膚病など西洋医学で治りにくい病気に対し漢方薬がもてはやされてしばらく経ちます。最近では「漢方は効かない」とか「漢方の副作用」といった内容の本も出版されています。本当の漢方は効かないのでしょうか?副作用が多いのでしょうか?ここ数年、漢方専門の治療施設が大学病院や公立病院に増えてきていることが、漢方治療の有効性を物語っているのではないでしょうか。
漢方の副作用を出さずに治療効果を挙げるには専門的な知識が必要です。「効かない」「副作用」といった問題は、漢方が広く普及したために、治療が玉石混交となっていることが問題であって漢方薬の問題ではありません。本書は、漢方治療で改善した患者さんを紹介し、覚えていた方がよい漢方の基礎知識を、わかりやすい言葉を使って解説しました。
1.家族を治療して
漢方を専門として一番よかったことは、家族の治療をすることができたことです。西洋医学だけではどうしようもない場合や、西洋医学では再発が起きたり、副作用が出る場合に漢方治療は有効な場合があるからです。
母のリウマチ
私の家族と漢方のかかわりは母の病気で始まりました。母は50歳台前半の頃に右足の痛みが出て大学病院などで検査をしましたが、骨の一部が変形しているのみで他に異常はありませんでした。良くなったり悪くなったりして半年ほど過ぎた頃に、全身の関節痛と38度の高熱が出て動けなくなってしまいました。解熱剤の坐薬や注射をしましたが、一時的で効果がありません。病名もわからないので大変心配しましたが、どうしようもありません。漢方治療は病名がわからない場合でも治療することができることを思い出し、診察をして越婢加朮附湯と言う漢方薬を処方しました。2日ごとに薬の量を調節していると次第に熱が下がり関節痛もとれて、1週間でどうにか動ける状態になりました。
その後近くの病院で精密検査をしたところ慢性関節リウマチと診断されましたが、経過を聞いた担当医は急激に熱が下がったため、ステロイドホルモンが入っているのではと問い合わせてきました。漢方薬だけを処方していたことを報告すると大変驚き、処方内容を知りたいという手紙を頂きました。しばらく漢方薬のみで過ごしましたが、ある時期に発熱することがあったため金製剤の注射を1年程併用し、その後は漢方薬のみで6年程経ちますが元気に過ごしています。
父の喘息発作
父は子供の頃から気管支喘息があり、時々発作を起こして苦しがっていました。ある晩に咳が止まらなくなったため、麻杏甘石湯という漢方薬を頓服として処方しました。服用後30分程度で咳が治まり、安眠できました。
妻の喘息
私の妻は多少虚弱でしたが、大病はしたことがないのが自慢でした。しかし、長女の妊娠中に呼吸が苦しくなる発作が数回あり、放置していたところ産後1年後頃より呼吸困難発作がしばしば起こるようになりました。近くの病院で気管支喘息と診断されましたが、発作が軽いため漢方薬で体質改善しようということとなりました。六君子湯と苓甘姜味辛夏仁湯という漢方薬を1日おきに服用するようにして、発作時は麻杏甘石湯エキスを頓服することとしました。
最初の2ヵ月は発作が頻回に起こるため、念のために気管支拡張剤の吸入薬を確保しておきました。3か月目頃より急激に発作の回数は減り、半年経つ頃には発作はまったく起こらなくなりました。念のために確保しておいた吸入薬は、結局一度も使いませんでした。1年程服用していましたが、発作がないために漢方薬を中止しました。その後は一度も発作が起こらず、元気に過ごしています。
長女の湿疹
長女は生後1ヵ月頃から首にひどい湿疹ができるような皮膚の弱い子供でした。この時は皮膚科に治療をお願いし、半年程で治りました。1歳半頃に右腕に小さな湿疹ができ、しきりに痒がりました。皮膚科を受診しましたが、様子をみましょうということで特に薬は処方されませんでした。1ヵ月過ぎた頃には湿疹は少し大きくなり、右胸にも同じような湿疹が出てきましたので、再度受診すると、ステロイドホルモンの入った軟膏が処方されました。軟膏を塗ると湿疹は消えますが、中止するとまた出てきました。
3ヵ月程過ぎた頃には、湿疹は右腕では10cm大となり、胸の部分では右胸全体に広がってしまいました。長女はまだ小さいので薬を飲みたがりませんでしたが、「痒みがとれるお薬」と説明して、小建中湯という漢方薬を処方しました。子供ながら、痒みがとれてきたのがわかったようで、「かゆいのおくすり」と言いながら毎日服用しました。
1週間後頃より湿疹が小さくなるのがわかり、1ヵ月後には湿疹はほとんどなくなりました。痒みがとれたこともあり長女は服用を嫌がるようになったため、漢方薬を中止しました。ところが、中止2週間後頃に再び湿疹が出てきたため、再度小建中湯を飲ませました。すると1週間で湿疹が消えてしまいました。前回のことがあったため、3ヵ月程服薬を継続してから中止しましたが、湿疹は再発しませんでした。
妻の喘息
私の妻は多少虚弱でしたが、大病はしたことがないのが自慢でした。しかし、長女の妊娠中に呼吸が苦しくなる発作が数回あり、放置していたところ産後1年後頃より呼吸困難発作がしばしば起こるようになりました。近くの病院で気管支喘息と診断されましたが、発作が軽いため漢方薬で体質改善しようということとなりました。六君子湯と苓甘姜味辛夏仁湯という漢方薬を1日おきに服用するようにして、発作時は麻杏甘石湯エキスを頓服することとしました。
最初の2ヵ月は発作が頻回に起こるため、念のために気管支拡張剤の吸入薬を確保しておきました。3か月目頃より急激に発作の回数は減り、半年経つ頃には発作はまったく起こらなくなりました。念のために確保しておいた吸入薬は、結局一度も使いませんでした。1年程服用していましたが、発作がないために漢方薬を中止しました。その後は一度も発作が起こらず、元気に過ごしています。
次女の湿疹
次女も長女と同じように皮膚が弱く、生後2ヵ月頃より首にジクジクした湿疹が出るようになりました。まだ生後2ヵ月で漢方薬は飲めませんので、紫雲膏という漢方の軟膏を風呂あがりに塗りました。翌日には多少は半年もかかったから、あのときも紫雲膏を塗ってあげれば早く治っただろうね。かわいそうなことをしたね」と話したのが印象的でした。
長男の風邪
長男は父親に似て、よく風邪をひきます。生後半年頃より、しばしば漢方薬のお世話になりました。熱が38度あり、顔が赤くなり、体が少し汗ばんだ時には桂枝湯、熱が出て食欲がなくなり、舌に白い苔がのり、吐き気がするときは柴胡桂枝湯で早ければ数時間、遅くとも2日以内には治ってしまいました。ただ、2歳前後から服薬を嫌がるようになり、西洋薬のお世話になっています。4歳を過ぎた頃から少し話がわかるようになり、説明すれば漢方薬を飲むようになってきました。